「うたごよみ」によせて その3「鶴」
京都の桜もあちこちで満開を迎えました。
写真は円山公園の枝垂れ桜
水明会館のある鴨川沿いは満開の桜だけでなく、淡く芽吹いた柳や白いコデマリや黄色のレンギョウの花の競演が見事で
「見渡せば 柳桜を こきまぜて 都ぞ春の錦なりける(素性法師)」
の歌をいつも思い出します。
さて、4月号のエッセイは、「桜」と予想しておりましたが、大外れでした。ですが、なんと、4月号から水明の表紙の写真が変わり、それが、どんぴしゃりで、「鶴」を詠んだ歌が書かれた陶器製の盃です。
「若浦尒塩満来者滷乎無美葦邊乎指天多頭鳴渡」
と趣のある字形で書かれています。読みは「若の浦に潮満ち来れば潟(かた)をなみ葦辺(あしべ)をさして鶴(たづ)鳴き渡る」となります。
万葉集の第六巻919の歌です。聖武天皇が紀伊国(きのくに)に行幸された時に山部宿禰赤人(やまべのすくねあかひと)が詠んだもので、917の長歌につけられた二首の反歌のうちのひとつです。
「若の浦」は現在の「和歌浦」のことで、雑賀崎の湾のこと。そして、雑賀崎はイタリアのアマルフィ海岸のように風光明媚だと注目されているそうです。
ちなみに和歌浦は、もとは「弱浜(わかのはま)」と言い、この歌が詠まれた行幸の十六日に聖武天皇によって、景勝の美しさから「明光(あか)の浦」と改名されたそうです。さらに「和歌浦」と改められたのは平安時代になってのことだそうです。
満ち潮で潟が無くなったために葦のほとりをめざして鳴き渡ってゆく鶴の情景を詠っています。
鶴が鳴き渡るほどに豊かな海であることを意味していて、この歌もまたそんな和歌浦の豊かさと美しい情景を鶴を通して褒め称えています。
さて
鶴は、長い足、長い首が特徴で、日本では、丹頂(たんちょう)、鍋鶴(なべづる)、真鶴(まなづる)などがあります。
「鶴は千年、亀は万年」と言われますが、実際の寿命は20年〜 30年程度だそうです。絵にもよく描かれ、桃山時代の俵屋宗達が絵を描き、本阿弥光悦筆の書とのコラボの「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」は有名です。描かれているモチーフはただ鶴のみで、飛翔している鶴の群れ、羽を休めて寄り集う鶴のシルエットは、比類ない美しさです。
そして、鶴を詠んだ歌を探してみると、万葉集には、47首あるそうです。
海辺に居る鶴がよく詠まれていて、昔は海の近くで見ることができたと思われます。
京都市内では、見ることのない鶴ですが、なんと、京都市動物園で丹頂鶴「タンチョウ」が飼育されています。本来の生息地は、北海道の東部、「丹頂」という名のとおり、頭頂部は皮膚が露出し血液の色が透けて赤く見えているそうです。冬から春先には、つがいの求愛行動が目立つようになり、向かい合って飛び跳ねたり、鳴き合ったりする「鶴の舞」が見られるそうです。
京都市動物園(岡崎公園内・京都市京セラ美術館のお隣)日本で二番目に古い動物園とのこと。(一番古いのは上野動物園) 手ごろな広さがよく、イベントもあり、動物の名づけ方が面白いとか。いろいろな工夫がされていて、色々楽しめそうなのです。タンチョウの写生などを目的にぜひ訪ねてみてください。
2025年4月 編集部 北川詩雪